約 2,127,662 件
https://w.atwiki.jp/rozen-jk2nd/pages/34.html
百合カップリングはこちらに… 女の子同士じゃ何も生産しないんだぜ。とか、女の子同士の恋愛なんて興味すらないんだぜって人は即リターン
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1197.html
少女の顔立ちに宿る、確かな面影。そして何より、見覚えのある、大きすぎて裾の余ったぶかぶかのお洋服。 その女の子は……確かにラブの親友で、仲間で、家族でもある、“東せつな”その人であった。 「せつな……だよね? どうしちゃったの? まさかっ!」 「黙れっ! 違うと言ったはずだ!」 少女は、苛立ったように睨みつけながら吐き捨てる。その様子も、まるで子供の癇癪のようで可愛いのだが、やっぱりラブにはそう感じる余裕はなかった。 「ううん、せつなだよ! 聞いて、あなたは――」 「こぼれてる」 少女は、床の一点を指差す。その先には、ラグカーペットの上に落ちて、中身の飛び散ったハーブティーのカップがあった。 「えっ?」 「お茶を持ってきたのだろう? そんなザマで、メビウス様のお役に立てるものか!」 「あっ、ゴメン! せつなのカーペット、染みになっちゃう」 ラブは慌てて何か拭く物を探す。ハーブティーは色が薄く、目立つ染みになるとは思えない。それでも、せつながどれほど部屋の物を大切にしていたかを思うと、僅かでも汚したくはなかった。 背に腹は変えられない。少し迷ってから、持ってきていたお手ふきで拭くことにした。しゃがみこんで、ゴシゴシとカーペットをこする。 その背後に、少女が素早く回りこんだ。 「きゃっ! せつな!? 何をするの?」 「動くな! 抵抗すれば、このまま首の骨を折る!」 少女の細い腕が、ラブの首に食い込んでいた。ゴホッ、ゴホッ、とラブが咽たので、少しだけ力が緩められる。 「離して! せつな、どうしちゃったの?」 「どうしただと? それはこちらのセリフだ! ここはどこだ? いつ、どうやってわたしをさらってきた?」 ラブは少女の腕を掴み、力いっぱい引き剥がそうとする。しかし、両手を使っているにも関わらず、片手で拘束している少女の腕はビクともしなかった。 腕の太さだって、ラブの半分ほどしかないのに。 「せつなは……さらってきたんじゃない。ここがあなたの家なの」 「その名で呼ぶのはやめろ、わたしの名前はイースだ。これ以上たばかる気なら、本当に――」 「やれば、いいよ」 「なにっ!?」 ラブは抵抗を止めて、身体の力を抜く。反動で少女の腕はラブの首に深く食い込み、ラブは更に咽る。 そのまま激しく咳き込みそうになるのを、グッと堪えた。 「お前は、命が惜しくないのか?」 「せつなはあたしを――ううん、誰だろうと、人を傷つけることなんてできないよ」 「メビウス様のためなら、できる!」 「もう、メビウスはいないよっ!」 「貴様っ!」 少女の声に怒気が篭る。ラブはこの先に与えられる苦痛を覚悟して、目を閉じて歯を食いしばる。 しかし、少女の腕に再び力が込められることはなかった。 「せつな?」 「全部――話せ。嘘かどうかは、わたしが判断する」 ラブは少女に拘束されたまま、これまでの出来事をかいつまんで話していく。 その格好は、ちょうどお姉さんが妹をおんぶしているような体勢であり、見る人が居ればきっと微笑ましく映ったことだろう。 もっとも、本人たちはいたって真剣であった。 「馬鹿な……。メビウス様がコンピューターだっただと? しかも、裏切ったわたしが倒したというのか? そんなこと、信じられるものか!」 「ラビリンスの人たちを裏切っていたのは、メビウスの方だよ! せつなはラビリンスを救って、みんなを開放したの」 「――嘘だっ! 全部でたらめだっ!」 「ゴメン――酷いこと言ってるのはわかってる。今のせつなは子供なのに……。でも、こんな大切なことで嘘なんて付けないよ!」 それから先、しばらくの間、二人とも一言も口をきかなかった。部屋の中を、重苦しい沈黙が支配する。 やがて少女の腕が緩み、ラブの拘束が解かれる。 「せつな……」 「もういい、眠れ」 トンッと、少女の手刀が、振り向いたラブの正面の首筋に命中する。 軽く、当たっただけだった。痛みも、衝撃すらも感じないまま、ラブは崩れ落ちるようにその場に突っ伏した。 『たいへん! せつなが消えちゃった!? ~子供の頃のクリスマス~(承の章)』 紺色のジャケットが、まるでコートのように腰にまで届く。太ももが露出するはずのプリーツスカートは、セミロングのように膝小僧までを覆い隠す。 ベルトと靴の紐をキツく絞る。ダブダブの赤いシャツは、裾を幾重にも折り畳み、余った丈は腰の辺りでクルッと結んだ。 それでやっと自由に動けるようになった少女は、クローバータウンストリートの商店街を練り歩く。 「目障りで、耳障りだ……。どうして、こんなに騒々しい」 街はクリスマスに浮かれ、大勢の人通りで賑わっていた。商店街では至る所からクリスマスソングが流れ、客引きの大声が飛び交う。 街路樹には、華やかなイルミネーションが輝き、店先は色鮮やかな装飾で飾り付けられていた。 それ以上に少女を戸惑わせたのは、周囲の人々の表情だった。 人数としては、大したことはない。この何倍、何十倍、何百倍もの人間を見たことがある。 だけど、ラビリンスの人々はみんな無表情で、それが当たり前だと思っていた。ある程度なりとも感情を表すことが許されているのは、幹部級の人間だけだったからだ。 街もそう。もっと大きな建物ならいくらでもあった。だけど、これほど無秩序で、色彩に富んで、華やかな建築物など見たことがなかった。 音も同じ。メビウス様のお話なら、もっと音量は大きかった。だけど、このような意味の無い音のつながりは何だ? 呪文のように繰り返される声にどんな意味がある? 「苛立たしい……」 少女は徐々に怒りを溜めていく。しかし、試してみたが、どういうわけかスイッチ・オーバーを使うことはできなかった。 いや、先ほどの女の説明を聞く限り、理由は明白だったのだが、それは認めるわけにはいかなかった。 この身体のままでは、そこいらの脆弱な人間よりはマシだとしても、この人数を相手に暴れて勝ち目はない。 仕方なく耳を塞いで、視線を下に落としながら、少女はあてもなく歩き続ける。やがて、今度は嗅覚が反応した。嗅いだことのない不思議な匂い。それは、確かに食べ物の匂いだった。 食料の置いてある建物なら、いくつか通り過ぎてきた。だけど、そこから薫る微かな匂いは、これまで一度も体験したことのないものだった。 ちょうどお腹が空いていたこともあって、少女はフラフラと匂いのする方向に引き寄せられていく。すると古ぼけた小屋の奥から、しわがれた老婆が出てきて声をかけた。 「おや、いらっしゃい」 「ここは何だ?」 「何だとはなんだい。口の利き方の知らない子供だね。だけど、見たことがある気がするね。どこから来たんだい?」 「聞いているのはこちらだ。これは何だ?」 「ふん、それはチョコレートってんだよ。あんた食べたことないのかい?」 「知らない」 「なら食べてみな、幸せになれる味さね。お金がないのなら」 老婆が最後まで話すのも聞かず、少女はその板状のお菓子を掴んで、背を向けて走り去った。 「お待ち! 飛び出しちゃ危ないよ! そんなことしなくても」 老婆がモタモタと追いかける。しかし、少女の足には到底追いつくはずもない――いや、追いつかないはずだった。 逃走しようとする少女の前に、いかつい制服姿の男が立ちはだかる。じわじわと距離を縮め、少女を取り押さえようとしていた。 「そこの女の子、止りなさい。何を持っているんだね? それにその格好は?」 「どけ! 邪魔をするな!」 「……大人しくしなさい。ちょっと署まで来てもらうよ」 「忠告――したぞ!」 少女は自分を捕らえようとする腕をかいくぐり、相手の懐に飛び込む。そのまま勢いを殺さず、軸足の重心を切り替えて男の足を蹴り飛ばした。 足を払われた形になった男は、尻餅を付いて地面に倒れこむ。そこに、追撃――少女の拳が相手の胸を打つべく迫っていた。 「とどめだ!」 「ひぃ!」 パァァ――ン とても、子供が放ったとは思えない強力な一撃は、横から割り込んできた人物によって受け止められる。 少女の攻撃を阻んだのは、真っ赤な服を着た男だった。 先の尖ったキャップを被り、そこから長い白髪が伸びている。口元には白いヒゲがたくわえられていた。 その男は、正面から受け止めたのではなかった。片手を真っ直ぐ差し出して、掌で受けたのだ。 それでいながら――これほどの音を立てる威力の拳を受け止めていながら、その腕はまるで微動だにしていなかった。 「サンタクロース? 売り子の方ですか? ご協力感謝します」 「…………」 赤い服の男は答えない。それを不気味に思い、少女は一歩後ずさった。 別に、制服の男は恐れるに足らない。だが、横から割り込んできた、このサンタクロースと呼ばれる男は危険だった。 直線の最短距離を走る突きを、「線の動き」で払うのではなく、「点の動き」で受け止めたのだ。それは、少女を遥かに超えた戦闘能力の持ち主であることを示していた。 「さあ、君、大人しく来るんだ」 「くっ……」 「お待ち!」 少女が、声のした方向を振り返る。そこには先ほどの老婆が立っていた。手に、たくさんお菓子が詰まった袋を持って。 「離しておやり。その子は知り合いの子でね、何か粗相があったならあたしが謝るよ」 「はっ! いえ、子供のしたことですし、身元を保証していただけるのであれば……」 「これを持ってお行き。あんまり親に心配かけるんじゃないよ?」 老婆は、制服の男――警察官には答えず、少女に手にした袋を渡す。少女は周囲を警戒しつつ、それをふんだくるように受け取った。 お礼も言わないまま、少女は背を向けて走り出す。サンタクロースは、いつの間にか姿を消していた。 警察官は一瞬どうしようか迷ったようだったが、人ごみを掻き分けて走り去った少女を今から追ったところで、到底捕らえられるとは思えなかった。 人ごみに疲れた少女は、休憩できる場所を探して広場に来ていた。木陰に座り、奪ってきた――ことにした、お菓子を口に運ぶ。 「甘い……。こっちは、しょっぱい。そして――美味しい……」 空腹だったせいだろうか? 知らない場所で、緊張していたせいだろうか? いや、きっと美味しすぎるせいなのだろう。 少女はお菓子をパクパクと口に運び、あっという間に食べ尽くしてしまった。 目の前では、数人の少年が歓声をあげながら、まだら模様のボールを蹴っていた。 歳は、少女と大して変わらないだろう。楽しげに球を奪い合う彼らには、まるで真剣さがなく、それが訓練の類ではないことが容易に想像できた。 「くだらない……。愚かで、ばかばかしく、意味のない行為だ」 まるで自分に言い聞かせるように、少女は小さく口にする。何度も、何度も、口にする。 でも、なぜか目はボールの動きを追っていて―― ポン、ポン、ポン、 少女の目の前に、まだら模様のボールが転がってくる。反射的に手を伸ばそうとして、すぐに引っ込めた。 自分に命中したわけではない。報復する必要はない。 かと言って、わざわざ取って渡してやる義理もない。 (すぐに取りに来る。だけど、ちょっと触るくらいなら……) 結局、手に取ることにした。ボールは思ったよりも重くて、固くて、しっかりとしていた。 これなら、自分が本気で蹴っても壊れないかもしれない。 ふと、そんな思いが胸を掠めて、少女は愕然とする。 (うらやましいというのか? あんな、くだらない遊びが……) 「ねえ、君っ! ボール取ってくれてありがとう!」 ボールを手にして考え込んでいる間に、少年の一人が取りに来ていた。 おめでたいと思う。自分は返すなどとは、一言も口にしてないというのに……。 「ありがとう!」 結局、少女は黙ってボールを差し出した。自分を信頼しきった瞳が曇るのを、なんだか見たくなかったからだ。 しかし、少年はすぐに立ち去ろうとはせずに、じっと少女の様子をうかがった。 「ねえ!」 「なんだ! まだ何か用があるのか?」 「よかったら、一緒にサッカーやらない?」 「わたしが――一緒に?」 「うん。さっきから、ずっとこっち見てたでしょ? 僕たちもちょうど一人足りなかったし」 「ルールを、知らない……」 それは、少女の精一杯の抵抗だった。さっきから、何十分も観ているのだ。 それだけで、この聡明な少女は、それがどのような遊びか。何が許されて、何が許されないのか。どうすれば勝ちなのか。ほぼ完全に把握していたのだった。 「女の子だもん、しょうがないよ。おいおい教えるからさ、まずはやってみようよ。僕の名前はタケシっていうんだ。君は?」 「イース……」 「イースって……あの? まさかね、歳が全然違うもん。外国の人みたいな名前だね。じゃ行こう、イース!」 「うん……」 二人は、他の四名と合流する。「女で大丈夫かよ?」「スカートはまずいんじゃないか?」などと口にする者もいたが、なぜか少女は腹が立たなかった。そのどれもが、少女を心配しての発言だったからだろうか? 少女は、「ハンデにちょうどいい」と言って、挑発的なセリフで彼らを煽った。もっともそれは、謙虚なまでに控え目に伝えた事実でもあった。 三対三のゲームが始まる。フットサルではなくミニサッカーと呼ばれるもので、十一人形式と同じルールで行われるらしい。もっとも、これしか知らない少女にはどうでもいいことだった。 四角い形に、マーカーで線を引いただけの簡単なフィールドが作られる。十メートル四方のそれは、グリッドというらしかった。 少女は、まずはディフェンスから。相手チームの二人は、三角を描くようなパス回しで攻めて来る。 ドリブルもパス回しも十分にスピードがあり、頻繁に遊んでいることが見てとれた。少女とて、見学も無しで参加すれば、その動きに付いていけなかったかもしれない。 しかし、少女は既に、各人の動きのクセや、パターンや、利き足までも把握していた。シュートの手前のパスを、あっさりとインターセプトする。 「ウソだろっ!?」 「いつの間に回りこんで来てたんだ!」 急停止と急加速。少女は、格闘術の応用で重心を自在に操り、右に左に、変幻自在なドリブルでゴールに迫る。 そして、シュート! そこで、少女に心理的ブレーキがかかる。 (本気で蹴ったら、ボールが壊れてしまうかもしれない。それに、この者たちに怪我をさせるかもしれない) その迷いの一瞬の隙を突かれて、ボールを奪われてしまう。 仲間のガッカリした声と、敵側の安堵の声。少女はすぐに我に返り、再びボールを取り戻しに走る。 (今――わたしは何を考えていた? 仲間? ばかばかしい……。だけど――) ゲームは完全に少女が支配していた。ラビリンスの、命がけの訓練で鍛え上げた運動能力と、幹部候補として培った空間把握能力。 誰も真似のできない動きでボールをキープしつつ、まるで上空に目があるかのように、敵味方の位置と動きを把握する。 「せめて一点くらいは返そうぜ! 食らえ!」 「そうは、させないっ!」 いつの間にかディフェンスに回り込んでいた少女が、相手のシュートを胸で受け止める。 ボールは少女の身体に触れた瞬間に威力を失い、ストンとその足元に落ちた。 「ウソだろ? あれって、クッションコントロール?」 「シュートを真下に落とすって、すげえ高等技術じゃないか……」 「上がれっ!」 少女の指示によるカウンターアタック。それは、上に立つ者としての適性の表れだろうか。 いつの間にか、攻撃の組み立て、即ちビルドアップすらも自分の物にしていた。 少女のキラーパスが、ディフェンスの股の間を抜いて味方に届く。絶妙なパスで、キレイにゴールが決まった。 「またやられた! ダメだ、これじゃあ、勝負にならねえよ!」 「なら、メンバー組みなおそうぜ。今度は、こっちがイースをもらうからな!」 いつの間にか、少女の奪い合いになっていた。少女は今度は、敵だった者と仲間になって、一緒に走り、一緒になって戦った。 五人全員が、なんだか大切な存在に感じられて―― 「イース! そのまま打て!」 パスするつもりだった味方が叫ぶ。これまで、少女は一度もシュートを打たなかった。そこで相手は、組しやすい他のメンバーを徹底的にマークすることで、少女の居るチームの得点を防いでいたのだ。 少女もまた、自分で打ってみたい欲求に耐え切れなくなっていた。もともとが勝気な性格でもあった。 (キーパーの居ない方向に打てば……) 少女は力いっぱいに蹴り足を振りぬく。サッカーボールは激しい勢いで飛んで行き―― これまでは、主にパスしか打っていなかった。五分以下の力だからこそ、完全なコントロールができていた。 しかし、いかな少女とて、今日始めたばかりの球技で、まして生まれて初めて打つシュートで、全力の球を狙い通りコースに決めることなどできるはずもなくて―― 「うわっ! …………」 そのボールは狙いを外れ、キーパーのタケシの正面に打ち込まれる。突き出した彼の両手のガードを貫き、顔面をも弾いてゴールに吸い込まれていった。 「おいっ! 大丈夫かよ?」 「すっげえ鼻血出てる。誰かティッシュ持ってない?」 「指が痛いってよ、突き指したんじゃないか?」 「まずいよ、病院連れてった方がいいと思う。俺、大人の人呼んでくる!」 全員が、負傷した少年を取り囲む。少女はその中には入って行けず、青ざめた顔のまましばらく立ちすくんで―― やがて、逃走するように背を向けて走り去った。 新2-474へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1169.html
誰が言い出したのか、わたしたち4人は今日も集まっていた。 場所はいつものところ。桃園家のラブちゃんの部屋だ。 「今日はポッキーゲームをする日だって決まってるんだよ!」 「そうなの? どうやってするの?」 「ポッキーを両端から食べるの。長く食べた方が勝ち。途中で止めた人は罰ゲームだからね」 何も知らないせつなちゃんに、やり方を説明するラブちゃん。罰ゲームの内容なんて聞くまでもない。 そんなラブちゃんを、美希ちゃんは面白そうに眺めている。どうして教えてあげないんだろう。そんなのは嘘なんだって。 だけど、そんなの決まってる。せつなちゃんの唇に口づけたくてたまらないラブちゃんに、ほんの少し肩を貸しているだけ。 そんな美希ちゃんを黙って見ているわたしもまた、ラブちゃんに味方している美希ちゃんと同罪だ。 「まだよくわからないわ」 小首を傾げてみせるせつなちゃんはホントに可愛い。ラブちゃんが好きになるのも無理ない。 「じゃあ、美希たんとブッキーにやり方見せてもらおうか」 「ええ、お願いします。美希、ブッキー」 「ハア!?」 さっきまでニマニマしていた美希ちゃんは、顔を紅くしたり蒼くしたりで余裕を無くして忙しそう。 「いいよ。美希ちゃんやろう」 わたしは、ポッキーを一本手に取り、彼女に向かい合う。 「こんなの、ただのゲームだよ美希ちゃん」 そう言うと、彼女を安心させるために笑いかけた。 だけど、その言葉は逆効果だった。 何も言わず立ち上がり、乱暴にドアを開けて、美希ちゃんは逃げ出した。 「あーあ……」 「失敗しちゃったわね」 残念がるふたり。何が起こったのかわからない。 「ふたりとも素直じゃないんだもん。ね?」 ラブちゃんの言葉に、せつなちゃんが頷く。さっきまで、素直じゃないのはあなたたちだとばっかり思っていたわたしは、ただポカンとしている。 「追っかけないの?」 ラブちゃんの言葉に促されるように慌てて鞄を拾い上げると、廊下に飛び出した。 案の定、公園で見慣れた後ろ姿を見つけると、そっと近づいて言う。 「ごめんなさい」 驚いて振り返る彼女は、瞳にいっぱいの涙をためている。瞬きをすれば一瞬であふれそうなそれを、わたしは唇で舐め、掬い取る。 「ホントはゲームだなんて思ってないから。だから……」 美希ちゃんの涙で舌がしょっぱい。わたしはこれ以上言葉を見つけられない。言葉のかわりに、美希ちゃんのつやつやしたくちびるに少し乱暴にくちびるをぶつける。 美希ちゃんは、痛いじゃないと言って笑った。 綺麗な美希ちゃん。意地悪な美希ちゃん。大人っぽい美希ちゃん。だけど、この時わたしは知ったのだ。わたしにしか見せない、誰も知らない美希ちゃんを。 end
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/532.html
(この時間、みんなは何をしてるのかしら…。) 布団に潜り込み、ふと考え込むせつな。 寒い季節は人肌恋しくなるもの。 それは時として人を… 【せっちゃん無双~悪戯天使】 やっぱり最初はラブよね。 いっつも一緒にいるのに、お風呂や寝る時だけ別なんて。 あ、トイレも………。 時計の針はもうすぐ日付変更線。静かな時間。 ラブはもう寝てしまったのかしら? 今頃素敵な夢でも見ていたり。 そう考えるだけで幸せになれるせつな。 その赤い瞳の先に見据えるものとは… (アカルン。ラブの夢の世界へ―――) 実現出来ればどんな世界が待っているのだろう。 困った顔をして私を見詰めるアカルンにそっと 「ごめんなさい」 私は廊下に出て、ラブの部屋の前で歩を止める。 ネームプレートにはクリスマスの可愛らしいデコレーションが。 (ラブもやっぱり女の子ね) ドアを開けて、ベッドの近くまでそっと足を運ぶ。 相変わらず寝相が悪く、やれやれとため息を付く。 「風邪引いちゃうわよ」 ゆっくりと掛け布団をラブの体へ戻そうとすると。 (あ……) 寝相が悪かったせいか、パジャマがずれ落ちてしまい下着が 露呈しているのに気付いてしまった。 息を飲む。 ゆっくりと私の鼓動は高くなっていく。 掛け布団に伸ばしていた自分の手の動きが止まってしまい…… (―――少しだけなら) ダンスで鍛えられているのか、ラブのお尻はキュッと引き締まっているように思えて。 間近で女の子の――――ラブのキュートな部分を見ている事が凄く嬉しくもあり、 悪い事をしているような罪悪感にも襲われて。 (触れて……みたい) 気付かれないよう、私はゆっくり手を伸ばしていく。 「う……、うぅん…」 とっさに私は身を隠す。 心臓が止まるかと思った…。 暗闇の中で、私は一人冷静さを取り戻す。 (ラブ………おやすみなさい) 部屋に戻って布団に潜り込む。 ―――深く―――深く 初めて見た余韻を忘れないように、と。 (寝静まった頃に現れるなんてちょっと……ね) 昨日の情景がまだ頭から離れない。 キッチンでお皿を洗うラブの後ろ姿をそっと眺めながら。 私は部屋へ戻ると、机の上にあった雑誌をペラペラと捲っていた。 気持ちを落ち着かせる意味でも。 『クリスマスもバッチリ!完璧にキメちゃおう!』 目に飛び込んで来たのは、美希のカジュアルに着こなした大人っぽい姿。 いつみても彼女は素敵。ラブとはまた違った何かが彼女にはある…。 ―――魅力的――― この目で確かめてみたい。 気付いた時にはもう、私の手にはアカルンが。 (アカルン。美希の元へ―――) 赤い閃光に包まれた悪戯天使。 辿り着いた先には、赤い衣装を着た美希の姿が。 しかし、飛び込んでくる世界は小さな隙間から見える程度。 身動きも取りづらく。 (ここは……) クローゼット。暗闇の中、せつなは美希を凝視する。 「アタシ完璧!美希サンタさん登場。なんてね、うふっ」 鏡の前で色々なポーズをする彼女。そんな姿を、私は一時も離さず見詰める。 本当に完璧だなと思う。背も高く、手足も長く、清楚な輝き…。 「次はどれにしよっかな…」 ポージングを止め、ベッドの上に置いていた洋服を模索する美希。 「ラブやブッキーに負けたくないし。たまにはね」 手に取ったのはミニスカート。そして―――― (!?) 着ていた衣装を一枚ずつ脱いでいく。 徐に現れていく美希の隠された部分。 「綺麗…」 思わず口に出してしまう程、魅力的なその体。 下着に包まれた部分も―――――見てみたい 〝バサっ〟 (あっ!) 無意識に手が動いてしまい、掛かっていた洋服が落ちてしまった。 その音に反応する美希。 「ん?」 一歩一歩、こちらへ向かってくる彼女。 (アカルン!…?アカルン!!) 無い。アカルンが無い!暗闇で手元が見えない。このままじゃ!!! 「美希~。そろそろ出掛けるわよ~」 「ハーイ。今降りてくから。」 大きなため息。動揺。そして――――罪悪感 クローゼットから出ると私は深呼吸をして。 「ごめんなさい、美希」 再びアカルンで自分の部屋へ戻る事にした。 はぁ… 思いっきり溜息をついて、私はベッドの上に倒れこむ。 ラブ。 そして―――美希。 私の大好きな親友…なのに。 込み上げてくる感情がどうしても……抑えられない。 (少し落ち着かないと…ね) 理性を取り戻すため、目を閉じて休もうとしたその時。 リンクルンにメールの着信音が。 差出人はブッキーで。 『やったよせつなちゃん!クリスマスセールの福引で景品当たっちゃった♪開けるのすっごく楽しみっ☆』 可愛い文面。見ている私まで嬉しくなってしまう。 あなたのその可愛い笑顔をもっと、ずっと――――見ていたい。 けれど…、もうやめよう。いたたまれない感情だけが私に残るから。 我慢。我慢して…。…大丈夫だから… 時計を見ると、もうすぐ晩御飯の時間。 一階へ降りようとした瞬間、リンクルンにメールの着信音が。 『至福の源泉入浴剤の詰め合わせだったよー!どれにしようか迷っちゃう。 これから美白の源泉試してみよっと。今度せつなちゃんにもお裾分けするね!』 ブッキーったら。そんな事まで報告しなくてもいいのに。よっぽど嬉しかったのね。 ――――――お風呂―――――― 再び高鳴る鼓動。 脳裏に駆け巡るブッキーの笑顔。白い肌。そして、健康的な体。 クローバーの中でもっとも胸が発育してるのはブッキー、あなただと思う。 私………、私ね、もう… 廊下に光る赤い閃光。 行く先は勿論、祈里がこれから産まれたままの姿になるあの場所へと。 辿り着いたのは浴室の手前で。 ドアの向こうには彼女が…、ブッキーがいる。 お風呂場の光が、私のいる場所をかすかに照らしていて。 「あっ」 思わず声が出てしまう。綺麗にたたまれた着替え。 ゆっくりとしゃがみこみ、私はそれをそっと手に取る。 シャツの下には、彼女の豊満な果実を包み込むブラジャーが。 (大きい…) 手にとって初めてわかる実感。やはり、彼女へのイメージは間違ってなかったのだと。 「今から………私も…」 鼓動は最高点まで達していた。ドアノブに手を掛ける。 服を脱ぐなんて言う余裕など全く無くて。 気が付くと、私は自分の部屋へ戻って来てた。 アカルンはまだ不思議そうにこちらを見てる。 「ごめんなさい。私、どうかしてるわよね。」 「あれ?わたし、ブラジャー持ってこなかったっけ?」 競-104へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1140.html
「日本を訪れていた、めくるめく王国ご一家が、本日帰国の途に就きました。」 夕食の後片付けをしていたせつなは、テレビから聞こえてきた声に、顔を上げた。画面には、たくさんの見送りの人々に囲まれた国王と王妃、それに二人の間でニコニコと手を振るジェフリー王子の姿が映っている。 「今回の滞在は比較的長く、ご一家は日本を満喫された模様です。 中でもジェフリー王子は、その流暢な日本語のみならず、綿あめや輪投げといった日本の庶民文化にも通じているなど、その日本通ぶりで我々を驚かせ、喜ばせてくれました。 何と言っても、その愛らしい笑顔に魅了された人は、数知れません。」 各地を巡ったときの、ジェフリーの映像が流される。縁日らしき場所で、綿あめを口にする姿。小学校の子供たちと、サッカーをする姿。そのあどけない、そして心から嬉しそうな笑顔を見て、せつなも自然に頬が緩んだ。 「やっぱり可愛いよねぇ、ジェフリーは。ねっ、せつな。」 隣りにやってきたラブが、そう言ってせつなの顔を覗きこむ。その妙にニヤニヤとした楽しそうな視線から、せつなはプイと顔をそむけた。 「私は、別に。」 「あれ~?せつな、何だか赤くなってない?」 「なっ、そんなこと・・・」 「ホントに可愛いわね~、この王子様。見ているこっちまで幸せになっちゃうわ。」 あゆみの言葉に、せつなは慌ててラブに言い返す言葉を飲み込む。同時に、あゆみがあのときの祈里と全く同じ台詞を言っているのに気付いて、可笑しくなった。 クスリと笑って、もう一度テレビに目をやる。場面はまさに帰国直前、国王の顔を見上げてひとつ頷き、特別機の機内へと入っていくジェフリーの姿だ。 (あれ?何だか・・・。) 一瞬の後に消えた、ジェフリーの映像。が、その消える間際の彼の姿に、何だか以前会ったときとは違う何かを感じて、せつなは小さく首を傾げた。 四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode6:タルト、またまた危機一髪!?(前編) その事件の始まりに、最初に気付いたのは祈里だった。いや、正確には、このところ祈里が毎朝散歩に連れていく、三匹の小型犬だった。 朝早く、病院の夜間通用口にもなっている横手の狭い扉から外に出たとき、一足先に外に出た三匹が、いつになくキャンキャンと騒ぎ立てたのだ。何事かと顔を上げると、その場から足早に立ち去るジーンズの片足が、かろうじて祈里の目に留まった。 三匹が、祈里の顔を見上げて物言いたげにクゥンと鼻を鳴らす。周りに人の気配が無いことを確認してから、祈里はその場にしゃがみ込んで、三匹と視線を合わせる。 「なぁに?何かわたしに、伝えたいことがあるの?」 優しい声でそう問いかける彼女の肩の上に、キルンがポン、とその姿を現した。 ☆ その次に気付いたのは、ラブとせつなだった。ダンスレッスンに向かう途中、二人は顔なじみの花屋のお姉さんに呼び止められたのだ。 「ラブちゃん、せつなちゃん。今日、おたくのフェレットのことを訊きに来た人がいたわよ。あのペットスクープの騒ぎ、まだ続いてるの?」 心配そうに尋ねられ、ラブとせつなは顔を見合わせる。タルトがスクープされてしまった事件は、もう一週間も前のこと。アニマル吉田はちゃんと約束を守ってくれて、あれからタルトの周りは、至って静かだった。 「そう。何も無いのなら、良かったわ。ちょっとしつこかったから、気になってたの。勿論、ラブちゃんたちが飼い主だなんて言ってないわよ。」 「それって、マスコミの人ですか?」 ラブの問いに、お姉さんは切り花のバケツの水を替える手を止めて、少し考えた。 「う~ん、マスコミの人には見えなかったけど。膝のところが破れたジーパンに、Tシャツ姿で・・・それと、何だかゆっくり喋る人だったわ。」 記憶を辿ってそう教えてくれたお姉さんに、ありがとう、とお礼を言いながら、二人の頭の中は、疑問符で一杯だった。 ☆ 「えぇっ!?ブッキーの病院がぁ?」 「怪しい男に見張られている、ですって?」 「どういうこと?」 ラブ、美希、せつなの三人に詰め寄られて、祈里は困ったように、視線を足元に落とす。 「理由はわからないけど、ワンちゃんたちがもう三日連続で、病院の周りをうろうろしている男の人を見た、って言ってるの。 お父さんに話して、警察にも連絡したんだけど、ただウロウロしているってだけじゃ、警察もなかなか動いてくれないらしくて・・・。」 祈里の言葉に、三人はそれぞれ険しい顔で考え込んだ。 急に静かになったせいか、蝉の声が辺りを包むように響き渡る。四人がいるのは、四つ葉町公園の石造りのベンチ。これからダンスの朝練なのだが、その前に祈里が、今朝犬たちから聞いたことを全員に話したのだった。 「まさか・・・あのペットスクープ絡みってことは、ないよね?」 ラブの言葉に、美希が目を丸くする。 「え・・・?だって吉田さん、家族に喜んでもらえるペットスクープを目指す、って言ってたじゃない。」 「いやぁ、そうなんだけどさぁ。・・・実はあたしとせつなも、ここへ来る途中、ちょっとヘンな話を聞いたんだ。」 ラブの説明を聞いて、美希の顔はより一層険しく、祈里の顔は、より一層心配そうになる。 「とにかく、朝練が終わったらブッキーの家に行ってみましょう。何か分かるかもしれないわ。」 せつなの言葉に、三人ともしっかりと頷いた。 やって来た三人を部屋に招き入れ、祈里は勉強机が面している窓を開ける。そこからなら、病院の横手――今朝男が立っていた、夜間通用口の辺りを見渡せた。 「あの辺りに立って、病院の中を覗いていたらしいの。」 「あそこから覗いたら、何が見えるの?」 「入院している動物さんたちの、ケージが並んでいるんだけど。」 「ってことは・・・もしもペットスクープ絡みだとしたら、あそこにタルトがいると思って?」 美希が眉をひそめる。そのとき、 「あ。誰か来たわ。」 ずっと窓の外に目をやっていたせつなが、冷静な声で言った。 四人で窓からそっと外を窺う。祈里の言った通り、夜間通用口の隣りにある窓から、男が一人、建物の中を覗き込んでいた。 白い半袖のTシャツに、ジーンズ姿。それでも暑いのか、しきりに額の汗を拭っている。どうやらまだ若い男のようだ。 「ブッキー、あの人?」 ラブの問いかけに、祈里は自信なさそうに首をひねる。 「うーん、今朝は、ジーンズがちらっと見えただけだから・・・。」 「少なくとも、ラビリンスではないみたいね。」 少しホッとした様子で呟くせつな。反対に、ラブはいつになく真面目な顔で、男の姿をじっと見つめた。 「ねえ、せつな。花屋さんが言ってたのって、膝が破れたジーパンにTシャツ姿、だったよね?」 「なるほど・・・。同じ人かもしれないわね。」 せつなが厳しい表情になる。 「でも、上でも向いてくれなきゃ、顔がはっきりとはわからないわね。」 美希がそう言って溜息をついたとき、男が苛立たしげに左手を上げて、ガシガシと頭を掻きむしった。 美希が、あ、と小さく声を上げる。 「あの腕時計・・・。」 「腕時計?」 せつなが不思議そうに美希の顔を見てから、もう一度男を見やる。男の左手首には、ビニールのてかてかした青いベルトが巻かれていて、それには確かに小さな文字盤が付いている。まるで子供がしているような、いかにも安っぽい腕時計だ。 「あの時計、どこかで見た気がするんだけど・・・。どこだったかしら。」 ラブが美希と一緒に、うーん、と考え込む。 「えーっと・・・モデルさんの衣装で、付けたことがあるとか?」 「いくらなんでも、あんな・・・って言い方は失礼よね。でも、現場で見たわけじゃないわ。」 「じゃあ街中で、誰かが付けているのを見たとか?」 「ごめんなさい、思い出せないわ。でも、どこかで見たのよね・・・。」 美希に続いて、ラブと祈里もガックリと肩を落とした。 「ねえ、ラブ。お花屋さんは、ゆっくり喋る人だった、って言ってたわよね。」 せつなが男から目を離さずに、ラブに話しかける。 「うん、そうだったね。」 「その割に、あの人ずいぶんイライラしているみたい。何かを急いで手に入れたくて、焦っているようにも見えるわ。」 「それが・・・タルト?」 ラブが不安そうにそう言ったとき、美希が鋭く囁いた。 「あ、ほら。動くわよ。」 男が相変わらず髪をくしゃくしゃと掻き乱しながら、くるりと向きを変えた。そのまま表通りの方へ、スタスタと歩いていく。 「追いかけよう!」 言うが早いか部屋を飛び出すラブに、せつな、美希、祈里が続く。だが、四人が表へ出たときには男の姿は既に無く、辺りをいくら探しても、見つけることはできなかった。 ☆ ラブたちが不審な男を探していた、その少し後のこと。 当のタルトは、四つ葉町公園の一角で、ガックリと肩を落としていた。近くに浮かんでいるシフォンが、その様子を不思議そうに見つめている。 「なんやぁ。カオルはん、店休んでんのかいな~。今日一日ドーナツが食べられんやなんて、ホンマ殺生やで~!」 楽しみにしていたドーナツカフェのワゴンはどこにも見当たらず、公園がやたらと広く感じられる。仕方なく、タルトは元来た道をトボトボと戻り始めた。 「ピーチはんもパッションはんも、毎日ダンス、ダンスでワイにかもうてくれへんし。つか、二人のアイス食べてもうてから、なんやワイに冷たい気ぃがするんやけど。自業自得っちゅうヤツなんかなぁ。」 誰もいないのを幸い、ぶつぶつと独り言を言うタルト。と、突然その顔が引きつった。いつの間にか何者かが、目の前に立ちふさがっていたのだ。 「わわわわ・・・な、なんやぁ?」 目の前には、紺色の長い棒のようなものが二本。視線を少し上げてみると、破れ目から膝小僧が覗いている。さらに上へと目を走らせると、そこにあるのはこちらを覗き込んでいる男の、満面の笑み・・・。 「どわっ!」 思わずしゃべってしまったことに気付いて、タルトは慌てて口を押さえる。同時に、大勢の人間によってたかって・・・それも笑顔で追いかけられた、あのときの恐怖がよみがえってきた。 急いでシフォンを背中に乗せると、四つ足になって走り出す。笑顔の主は、何事か叫んだかと思うと、彼の後を追って走り出した。その予想以上に素早い動きに、うなじの毛がピーンと逆立つような緊張感が、タルトを襲う。 (うわぁ、堪忍したってぇな~!) ところが、公園を出たところで後ろから聞こえてきた言葉に、タルトは思わずずっこけそうになった。 「待ってぇ、そこのナマモノ!言葉しゃべるのか?お前、幸せになれるナマモノか?ちょっと、待て~!」 (ナマモノやない!イキモノやがな。セイブツでもええけど、ナマモノは無いで。あんさん、漢字の読み方、間違うとるで!) 声には出せないので、心の中でツッコミを入れる。気を取り直して足を速めようとするタルトに、声はなおも追いすがった。 「幸せのナマモノ~!お願いです。俺様、みんな幸せにしたい。タイムリミットまでに、どうかお願い。一緒に、来ヤガレ!」 (丁寧なんか乱暴なんか、そもそも何言うてるんか、さっぱりわからへん!でも・・・ワイがしゃべっても、この人、それには動じひんみたいやなぁ。) タルトは意を決してくるりと後ろを向いた。そして、まだ少し距離がある男に呼びかけようと、息を吸い込む。 その時、急に男の動きが止まった。怯えたように辺りを見回すと、最初に目に付いたらしい脇道に飛び込む。そして男はタルトを置き去りにして、一目散に走り去ってしまった。 「・・・なんやぁ?あれ。」 「キュア~?」 目をパチクリさせるタルトとシフォンの鼻先を、自転車に乗ったお巡りさんが、のんびりと行き過ぎていった。 ☆ そして、そこには実は、もうひとり。 公園のベンチで昼寝をしていた西隼人は、ドタバタと何かが走り回る物音に、たまらず目を開けた。足音だけでなく、彼が大嫌いなあの言葉までもが、何度も聞こえてきたような気がする。 「ううむ・・・。この世界の人間どもは、なんてしつこいのだ。よし!今度こそ、そいつを捕らえてモフモフ・・・いや、不幸のゲージ、上げさせてもらうぞ!」 叫ぶと同時にベンチから跳ね起きる。タッと地面に降り立った隼人の目の前には、真夏の午後の強い日射しと、ざわざわと揺れる濃い緑。 「スイッチ!って、あれ・・・だぁれも居ねぇ・・・。」 彼の呟きをあざ笑うかのように、ツクツクボウシが高らかな声を響かせ始めた。 ☆ 疲れ切ったタルトが、シフォンを連れて桃園家に戻ってきたとき、謎の男の捜索に行き詰った四人も、ラブの部屋に集まっていた。 「タルト!良かったぁ、無事に帰ってきて。大変なんだよっ!」 「ピーチはん!ちょっと聞いてぇな。今日は大変やったんやぁ!」 我先に話を進めようとするラブとタルト。せつながラブを、美希がタルトを押しとどめ、祈里が両方の話を整理して、ようやく全ての話が繋がった。とは言っても、分かったことと言えば、どうやらみんな同じ男に振り回されていたらしいということと、男の狙いはやっぱりタルトらしいということ、その二つだけだ。 「それにしても、タルトのことを『幸せの生き物』だなんて、どこからそんな話が出てきたのよ。」 美希が不思議そうに首をひねる。ペットスクープで騒がれたのは、おへそが無い、ということだけで、そんな迷信じみた話が出てきた覚えは無かった。 「ほら、あのとき商店街にビラが撒かれたでしょ?どうもあれを見た人たちが、そんなことを言い出したみたいよ。」 「それでウエスターが、ナケワメーケでタルトを狙ったりしたわけね。」 祈里の言葉に、せつながやっと納得がいったというように、小さな声で呟く。 「じゃあ、あの人もその話を信じて、タルトを狙ってるってこと?本気でそんなこと信じるかなぁ。」 怪訝そうな表情のラブに、祈里が静かに首を振った。 「珍しい動物が、幸福の象徴になるのはよくあることなの。有名なところでは、昔から、白い蛇はとても縁起がいい、なんて言われてるわ。」 「へぇ~!」 「だからぁ、ワイは動物やない。可愛い可愛い妖精さんやぁ!その上、蛇と一緒にするやなんて・・・。」 不満そうなタルトの呟きは、祈里の話を感心して聞いている三人には、残念ながら届かなかった。 「それで、これからどうする?このままじゃ、タルトが危険よね。」 美希が眉をひそめて、三人を見回す。しかし、タルトは尻尾をゆらゆらと左右に振りながら、のんびりとした調子で言った。 「せやけど、アイツ、そないに悪いヤツには見えへんかったで。なんやワイのこと、誤解しとるようやったけどな。せやから、ちゃんと話して誤解さえ解ければ・・・」 「なに呑気なこと言ってんのよ!」 バン、と机を叩いて立ち上がったラブの剣幕に、タルトは思わず縮こまる。その身体がふいに抱き上げられたかと思うと、うるんだ大きな瞳に、至近距離から覗き込まれた。 「狙われてるのは、タルトなんだよ?ホントにわかってんの?タルトが・・・あたしたちの大切な家族が、また危ない目に遭ったら、あたし・・・。」 そこまで言うと、ラブは耐え切れなくなったように、タルトをぎゅっと抱きしめた。 「あたし、この前タルトが病院から居なくなったとき、すっごく心配したんだからね。あんな思い、もうしたくないよ。」 「ピーチはん・・・。」 早くも泣きそうになっているタルトの頭を、せつながちょんと指で小突く。 「そうよ。だから今度ばかりは、心配かけないでよね、タルト。」 「ここまで言われちゃ仕方ないわね、タルト。今度こそ大人しくしてなさい。」 「そうそう。またラブちゃんとせつなちゃんに追いかけられても、助けてあげないんだから。」 「みんなぁ・・・。」 美希と祈里も加わって、タルトの涙腺は、あっという間に崩壊した。 ☆ 次の日の午後。 二日ぶりに店を開けたカオルちゃんは、近付いてくる人影を見て、あれ?と意外そうな声を上げた。 「いらっしゃい。珍しいね、お嬢ちゃん一人?」 「ええ。でも、多分みんなともまた後で来ます。今は、タルトの分を買いに来たの。」 少しはにかんだ笑みを浮かべたせつなが、静かに店の前に立った。 タルトの好みを知り尽くしているカオルちゃんが、ドーナツを手際良く紙袋に詰めていく。 「へぇ。兄弟がそんなに大人しくしてるなんて、珍しいことがダブルで来たね。グハッ!」 話を聞いて、相変わらず軽~い口調で返すカオルちゃんに、せつなは苦笑する。が、 「まぁ、それだけ心配されてるんじゃ、仕方ないか。兄弟は幸せモンだよねぇ~。」 そう言って笑うカオルちゃんを見て、何やら考え込んでしまった。 あれから四人で相談した結果、せつなたちは、やっぱりあの男を探すことにした。もしかしたらタルトの言う通り、ちゃんと話せば誤解が解けるかもしれない。それでタルトを追いかけるのをやめてくれれば、それが一番いい。そう思ったからだ。 ただし、タルトはこれには加わらず、シフォンと留守番していること。そして、もし誰かが彼を見つけたら、必ず他の三人に連絡して、四人揃ってから声をかけること。この二つを必ず守ろうと、約束した。 あゆみと圭太郎にも、タルトを探し回っている人物がいるらしいと告げた。これには、二人に心配をかけるだけなのではないかと、せつなは最初、反対した。だがラブは明るく笑って、 「タルトはうちの家族だもん。お父さんやお母さんに話すのは、当然だよ。」 と言い切った――。 「あの。」 せつなが思い切った様子で、カオルちゃんに声をかける。 「心配されるって、幸せなことなんですか?私には、大切な人を苦しめるだけなんじゃないかって思えるんですけど。」 カオルちゃんは、ポカンとした顔でせつなを見てから、やがてその口元を、わずかにほころばせた。 「う~ん、そうだなぁ。心配ってのは苦しいし、長くて重い心配ってのも、世の中には五万とあるだろうけどね~。」 空を仰いでそう呟いてから、彼はせつなに向き直る。 「お嬢ちゃんさ。この前兄弟が騒ぎに巻き込まれたとき、心配した、って言ってたよね。あのとき、どんな気持ちだった?」 え・・・と目をパチパチさせてから、せつなはうつむいて、あのときの自分の気持ちを思い出す。 「とっても不安で、ドキドキして、タルトの具合が良くならなかったらどうしよう、具合の悪いタルトがもしも見つからなかったらどうしようって、そんなことばっかり考えて・・・。」 「それから?兄弟が見つかって、どう思った?」 「お腹も大したことないってわかって、無事に見つかって。凄くホッとして、安心して・・・。」 「うんうん。その、元気で無事でいる兄弟の姿、心配してる間、頭に浮かばなかった?きっとこういう姿でいてくれるって、そういう祈るような気持ち、なかった?」 「あ。」 せつながわずかに顔を上げる。その様子を見て、カオルちゃんは口元に小さく笑みを浮かべた。 「不思議だよね~。毎日元気でいるのがあったり前の人が、たま~に具合悪くなったりするとさ。また元気になったとき、それがあったり前なのに、妙に嬉しかったり、ありがたかったりするんだよね~。」 カオルちゃんはそう言いながら、トントンと袋の中のドーナツを落ち着かせる。そして袋の口を真っ直ぐに二回折り曲げると、折り目をしごいた右手の人差し指を、そのまま袋の右の角に載せた。続いて左手の人差し指を、左の角に載せる。 「こっちが最悪で、こっちが最高だとしたらさ。誰だって、この間のどこかにいるんだよね。」 カオルちゃんが、左手の人差し指で袋の左の角をつつく。 「こっちの、最悪の怖さにばっかり目が行っちまうのが『心配』ってヤツでさ。でもほら、こっち。」 今度は右の人差し指で反対側の角を叩いて、カオルちゃんは言葉を続ける。 「こっちの、最高・・・は難しいかもしんないけど、いいときの相手を知ってるから、心配も出来るのよ。いつかこっちの、いい状況になれるに違いない、いや、今はもう「いいとき」になってるかもしれないって、そんな希望があるからさ。 そもそも最悪しかないって完全に思ってたら、心配したくたって、出来ないもんね~。」 そこでニヤリと笑って、カオルちゃんはもう一度、袋の折り目を左から右に向かって丁寧にしごいた。 「そんな風に、いいときの――最高の自分を思い描いてくれる人がいたら、苦しめて申し訳ないって気持ちと一緒にさ。嬉しくて、ありがたくて、何とかそんな自分になれるように頑張ろうって、オジサン思うな~。」 真剣な顔で頷くせつなの耳に、あのときのラブの声がよみがえる。 ――せつなを独り置いて行けないよ。あたしだって、せつなが心配なんだからぁ。 あのとき・・・ドームで倒れたせつなを、医務室で介抱してくれたときの、ラブの言葉。ラブが思い描いてくれた「いいとき」は、あのときは偽りのものでしかなかった。 今はどうなんだろう。ラブは自分のどんな姿を、「いいとき」の自分と思ってくれているんだろう。そして今の自分は、そんな姿に少しでも、近付くことができているんだろうか。 「お嬢ちゃん。」 黙り込んだせつなに、カオルちゃんはまた能天気な声で話しかける。 「最悪にばっかり目が行っちまうのが『心配』って言ったろ?じゃあさ、最高にばっかり・・・時には、最高の最高、もーっと向こうにまで目が行っちまうのは、何だと思う?」 「え・・・?」 困った顔をするせつなにもう一度ニヤッと笑って、カオルちゃんは袋の左の角を三角に折る。 「じゃ、これは宿題な。ヘンなたとえに使っちまったから、最悪の角はまぁるくしとくから。あ、これ三角か。グハッ!」 ドーナツの袋と宿題と、それから何だかぬくもりまで一緒に手渡されたような気がして、せつなは少し照れ臭そうな笑顔で言った。 「ありがとう・・・カオルさん。」 途端にカオルちゃんの眉毛が、情けないくらいにカタッと下がる。 「お嬢ちゃん、カオルさんはやめてよ~。オジサンのコードネームは、カオルちゃん。そこんとこ、よろしく!」 ぐっと親指を立てる男を、「カオルちゃん」と呼び直すのは恥ずかしくて、せつなは真っ赤な顔でぺコンとお辞儀をすると、早足でドーナツカフェを後にした。 四つ葉町商店街に差し掛かると、向こうからラブが駆けてきた。今は四人それぞれ手分けして、昨日の男を探していたのだ。 「せつな~!何か手掛かり見つかった?あ、ドーナツ!嬉しいなぁ。あたしのために買ってきてくれるなんて、感激だよぉ!」 一気にまくしたてるラブに、せつなは悪戯っぽく笑って、ドーナツの袋をさっと背中に隠す。 「だ~め、これはタルトの。一日中家に居て退屈してると思うから、せめておやつに、ね。」 「そっか。そうだよね。タルト、きっと大喜びするよ。」 その言葉を聞いてふっと真面目な表情になったラブは、しかし次の瞬間、甘えるような上目遣いでせつなを見た。 「でもさぁ、こんな大きな袋ってことは、何個もあるよね?じゃあじゃあ、一個だけ~」 「ダメ!」 せつながきっぱりとそう言ったとき、ドーン、という破壊音が、辺りに響いた。 「何の音!?」 二人の空気が、一瞬で張り詰める。 「こっち!」 ドーナツの袋を抱えて駆け出すせつなに、ラブも続いた。 天使の像の方向に、盛大な土煙が見える。ドーン、ドーンという破壊音も、近付いてくる。やがて建物の陰から現れたものを見て、ラブとせつなは凍りついた。 淡いグレーの身体に、太くて長い尻尾。水色の襟飾りは、今は何だか刺々しいものに変化している。 「・・・な、なんでっ!?」 「・・・まさか、そんな!?」 呆然とする二人に、その生物・・・いや、怪物は、 「ナケワメーケ!!」 辺りを揺るがすほどの咆哮を上げた。 ~前編・終~ 新2-064へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/169.html
美希ちゃんは、私のあこがれだった。 テンポが遅い私は、小さい頃男子によくからかわれ、 その度に、ラブちゃんと美希ちゃんがかばってくれた。 クラスでも一番の美人、しかもスポーツも万能な 美希ちゃんが一喝すると、男子はおとなしくなった。 美希ちゃんは、たまたま商店街に来ていた プロダクションの人に目をつけられ、雑誌に載ったら たちまち人気となり、モデルさんとして活躍を始めた。 私は応援する反面、美希ちゃんが遠くに行った ような感じがして、寂しかった。 美希ちゃんは今まで通り四つ葉町にいて、携帯も メールも知ってるし、呼んだらすぐに会えるのに。 その頃から、私は自分の気持ちの変化に気づいた。 ひとりの女の子として、美希ちゃんが好きだってこと。 美希ちゃんが私に笑いかけるたびに、 私の心はとても幸せになり、 美希ちゃんのフレグランスが香るたびに、 私の胸はドキドキと高鳴っていた。 でも、美希ちゃんは完璧なモデルさん。 芸能界に入って、かっこいい男の人と恋愛して どんどん磨かれていく人。 私なんかが想っていても、 邪魔なだけ。 それでも、ひょっとしたらって思ってた。 私が想い続ければ、その想いに 応えてくれるんじゃないかって。 みんなで誕生会したとき、私へのプレゼントに 美希ちゃんが選んでくれたハンカチ。 美希ちゃんがアロマに凝り出した頃、 私をイメージして作ってくれたフレグランス。 今でも使っている。 美希ちゃんがそばに居てくれる気がして。 さっき、学校の帰りに寄った占いコーナーで出た 「近く、すばらしい進展があります」という結果は 信憑性はともかく、何か嬉しかった。 美希ちゃんとも、進展するといいな。 「山吹さん」 後ろから声をかけられた。 御子柴君だった。 遊園地にみんなで行ってから、 ほとんど会っていなかった。 「今、帰りですか」 「うん、ちょっと寄り道しちゃった」 「先日はすみません。僕、何だか格好悪くて」 「ううん、人には苦手なものがあるし。 私こそ、苦手なものに付き合わせてごめんね」 「そうですか...よかった」 「私だって、動物病院の娘なのに、フェレットが苦手だったの」 「えっ?そうなんですか?」 「ふふっ、意外でしょ」 たわいもない会話が続く。 「あっ...」 私は、今日発売の雑誌を 買っていないことに気づいた。 「私、本屋さんに行かなきゃ。 こっちに曲がるから。バイバイ」 「はい。さようなら」 御子柴君と別れて、本屋さんで雑誌を買う。 ついでに色々立ち読みしていたので、 時間が経ってしまった。 家に帰る途中、公園のベンチに座る 美希ちゃんを見かけた。 考え事しているみたい。 私が近づいても、全然気づかない。 ふわっと、いい香りがする。 横に座り、美希ちゃんの横顔を眺める。 ようやく、美希ちゃんが私に気づいたみたい。 「どうしたの?美希ちゃん」 「ううん、ちょっと考え事していただけ。 ブッキーこそ、どうしたの?」 「恋占いしてもらった帰りなの」 「そう...で、どうだった?」 「近く、素晴らしい進展があります、って...」 「あの男の子と?」 「えっ...?」 「さっき一緒にいた男の子よ。 いいじゃない、お似合いで」 違うよ、全然違う。 「やっぱり恋愛は男女ですべきよ。 男同士とか女同士とか、おかしいわ。 それに、あの子優しそうじゃない。 祈里とはお似合いだと思うな。 付き合っちゃいなよ」 心に、穴があいた気がした。 私が美希ちゃんを想っていることは、 美希ちゃんに伝わってはいたみたい。 「やっぱり、そう思ってたんだ...」 失望が、口から出る。 「私は...ずっと...」 視界がにじむ。 あふれてくる寂しさを、抑えられない。 この場に居られず、走って公園を出た。 ずっと、 ずっと、 好きだった。 でも、美希ちゃんの答えは、 拒絶。 女同士なんて、あり得ない。 通りに出ても、涙が止まらなかった。 涙を拭くために取り出したハンカチ。 美希ちゃんがくれたハンカチ。 拭けば拭くほど、涙があふれる。 商店街のベンチで座り込む。 人が走ってくる音がした。 「ブッキー!どうしたの?」 肩を激しく揺すられる。 顔を上げると、ラブちゃんが 心配そうな顔で覗き込んでいた。 「ラブちゃん...私...」 ハンカチを見つめる。 また涙が出てきた。 「ブッキー、そのハンカチ...」 ラブちゃんの前でみっともないけど、 しばらく声を上げて泣いた。 家まで、ラブちゃんが送ってくれた。 泣くばかりで何も言えない私に、 ラブちゃんは何も聞かず、 黙って背中をさすってくれた。 握りしめたハンカチは、涙を拭く場所が 無いほど濡れてしまった。 夕ご飯も食べず、部屋にこもる。 机の上の写真。 ダンスレッスンの時に、3人で撮った。 めずらしく美希ちゃんの横に私が居る。 嬉しくて、ちょっと美希ちゃんに寄ったので 3人というより、2人と1人みたいな写り方。 写真立てを、パタンと倒した。 こういうときは、思いっきり泣いた方がいい。 雑誌にもよく書いてあるよね。 失恋したときの忘れ方。 アルバムを見ながら、 色々と思い出しては泣き、 明け方になって泣き疲れた頃、 ようやく眠った。 起きると、昼過ぎだった。 鏡を見ると、泣きはらした ひどい顔の私が居た。 外は霧雨が降っている。 心の中で、踏ん切りが付いた。 もう、あきらめよう。 美希ちゃんは、普通の幼なじみ。 何もなかったように、過ごそう。 ただ、美希ちゃんにはちゃんと伝えないと。 女の子に好かれて、迷惑だったろうから。 重い足取りで、家を出る。 霧雨が風景を霞ませている。 傘を差していても、雨が舞い込む。 商店街のひとつ手前の路地。 美希ちゃんの家の裏口が見える。 足取りはいっそう重くなる。 傘もささず、走ってくる人影があった。 私の前で止まる。 美希ちゃん...? でも、ちょうど良かった。 ここで気持ちを伝えて、帰ろう。 それで、今まで通りの、幼なじみ。 「美希ちゃん...ごめんね、今まで。 迷惑だったでしょ。 ずっと美希ちゃんのこと見ていたけど、 もう...あきらめるから、安心して。」 吹っ切ったつもりだったのに。 いざ美希ちゃんを目の前にすると、 枯れたと思っていた涙があふれる。 「今まで、好きでいさせてくれて...ありがとう」 ほとんど言葉になっていない。 来た道を、走って戻る。 後ろから、抱きすくめられた。 傘が、落ちた。 「行かないで、祈里!」 祈里と呼ばれて、体が硬直した。 「きのう言ったの、全部嘘! あの子とつきあって欲しくない!」 えっ... 「アタシ...祈里が好き...!」 頭が、混乱する。 美希ちゃんは、女同士って あり得ないって言ってた。 でも、私のこと好きって...。 同情? 私が、かわいそうだから? でも、美希ちゃん、 泣いてる...。 振り返る。 私を見つめている美希ちゃんの顔は、 いつも見るお姉さんじゃなくて、 ひとりの普通の女の子。 「祈里を、離したくない...!」 泣きながら、私を見つめている。 嘘じゃない。 同情なんかじゃない。 美希ちゃん、本気で私のこと...。 感情が、抑えきれない。 美希ちゃん。 私、もう我慢しなくていいんだよね。 美希ちゃん。 私、美希ちゃんを好きでいていいんだよね。 美希ちゃん。 美希ちゃん。 涙で、美希ちゃんの顔がかすんでいる。 抑えようとしても、嗚咽の声が漏れる。 私の頭を、美希ちゃんがしっかりと 胸に抱いてくれた。 私は、声を上げて泣いた。 美希ちゃんの涙が、私のほおに落ちる。 暖かい、しずく。 心が震えるような感覚が治まり、 顔をあげると、私と同じくらい 泣きはらした顔の美希ちゃんと 目があった。 霧雨の感覚が、急に感じられた。 「風邪...ひいちゃうよ」 美希ちゃんの家で、シャワーを借りる。 暖かいシャワーを浴びていると、 何か不思議な気持ちになる。 家を出るときはあんなに重く つらい気持ちだったのに、 今はとても安らいだ気持ちと、 これからのドキドキが混じった、 何とも言えない気持ち。 私の服を乾燥機にかけている間、 美希ちゃんの服を借りる。 私には大きいので、シャツだけ着る。 美希ちゃんがシャワーを浴び終えて、 部屋に入ってきた。 バスタオル一枚の姿を見て、 私は思わず下を向いた。 部屋にいい香りが拡がる。 甘く、心を落ち着かせる香り。 かすかにひそむ情熱的な香り。 「とってもいい香り...」 「大切な人と過ごすために、買っておいたの」 それって...私? 顔をあげると、美希ちゃんと目があった。 私だけを見てくれる、優しい瞳。 美希ちゃん... 自然に、目を閉じた。 唇が重なる。 心が、素直になる。 体が、素直になる。 ゆっくりと、ベッドに倒れ込んだ。 重なる肌。 ひとつになる吐息。 美希ちゃんで 満たされていく。 甘い香り。 幸せな時間。 何度も、昇りつめる。 ... 美希ちゃんでいっぱいになった私は、 訪れた眠気に、素直に身を任せた。 意識が戻ってきた。 急に、夢だったんじゃないかと 不安になる。 唇が触れる感触があり、目を開けた。 すぐ近くに、美希ちゃんの顔があった。 「ごめん、起こしちゃった?」 美希ちゃんがささやく。 夢じゃ、ない。 「ううん、こんな起こし方なら大歓迎」 今度は私から口づける。 私のおでこに、美希ちゃんのおでこが触れる。 「あらためて、これからもよろしくね、祈里」 「こちらこそ。美希ちゃん」 想い続けていて、良かった。 私が想っているのと同じくらい、 美希ちゃんも想ってくれたら、嬉しいな。 物語は3-610へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/423.html
love-setuna ベランダから部屋を覗くと、せつながベッドに倒れ込んでいた。 倒れた、と言うか、ベッドに腰掛けたまま上半身を横にしていた。 また、具合悪いんじゃないよね? 「……せつな、どうしたの?…って!?ちょっ!」 せつなの顔を覗き込もうとした瞬間、グイッと手を引かれて ベッドに引き倒された。 せつなが覆い被さってくる。 (………?) あたしに体重を掛けたまま、じっと動かない。 荒い息を抑えるように少し体を震わせている。 あたしの胸の上で押し付けられたせつなの鼓動が早鐘を打っているのに 気が付いた。 背中に腕を回し、寝返りを打って体を入れ換える。 心臓の動きに合わせて、微かに左乳房が揺れてる。 宥めるようにさすると、せつなが手の平を重ねてきた。 「………会ってきた。」 誰に、とは聞くまでもない。 余程緊張したのだろう。重ねられた手は冷たく湿っている。 体を起こして顔を見ると、泣き出す寸前の子供のような表情をしていた。 「……そっか…。」 前髪の生え際を撫で、おでこをくっつける。 せつなはギュッと目を閉じ、あたしの首に腕を絡める。 「………抱っこ、して…。」 涙の混じった声でそんな事を言う。 せつなの頭を抱えるようにして、今度はお互い向かい合って横になる。 腰を引き寄せ、ぴったりと体を密着させる。 せつなの動悸が治まるまで。 「……精一杯、頑張ってきたんだね…?」 髪を指で梳き、よしよしと背中をさする。 「せつな、いい子。」 「…いい子なんかじゃ、ないわ。」 泣かせてきたんだもの。 「……せつなはいい子。あたしの大事なお姫さま。」 ラブは唄うように囁く。 「せつなが何を言って、どんな事をしてもね。」 あやすように体を揺すり、額に、瞼に、頬に、口付ける。 「だーい好き、だよ?」 あたしとせつなの鼓動が緩やかに重なっていく。 まるで一つの心臓みたいに。 「……私も。」 ラブの中に溶けてゆきたい。 「それはダメ。」 「……どして?」 こんな風に抱き締められなくなるから。 「……せつなはね、幸せになるんだよ。今より、もっと、もっと。」 だからブッキー、戻ってきてね。 あたしもせつなも、あなたの笑顔を待ってるから。 miki-inori 祈里が訪ねて来た。 唇を引き結び、硬い 表情で。 泣きそうなのを我慢してる。それくらい分かる。 何年付き合ってると思ってるの? 「らしくない事、するもんじゃないわよ。」 しんどかったでしょ? 「……美希ちゃん……。」 ポンポン、と頭を叩くと祈里はアタシの膝に顔を埋めて泣きじゃくった。 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい………… ただ、それだけを繰り返す。 アタシにしか、言えないんだよね? ラブにも、せつなにも言葉での謝罪なんて意味がないから。 でも、言いたいのよね。ごめんなさいって。 だって、あなたが悪いんだもの。謝らなきゃ、苦しいわよね。 だから、アタシが聞いてあげる。 ラブの分まで。せつなの分まで。 「これで、お仕舞いにするから……。もう、泣かないから。」 本当は、もう泣かないでいられるって思ってたの。 だって散々泣いた後だったから。ダムが出来るんじゃないかってくらい。 でもね、また溜まっちゃったみたいなの。 美希ちゃんの顔みたら、我慢出来なくなっちゃったの。 祈里は、そう言ってまたアタシのスカートを涙で濡らす。 アタシは黙って祈里の柔らかい髪を撫で続けた。 「…美希ちゃん。次のダンスレッスンね、一緒に行ってくれる?」 「いいわよ。前の日に泊まりに来れば?」 一緒に寝て、朝一緒に出よう。 「美希ちゃん、美希ちゃん、美希ちゃん……」 ごめんなさい、の次はアタシの名前? 壊れたスピーカーみたいね。 でもね、泣くのはこれでお仕舞い、なんて言わなくていいわよ。 膝くらいいつでも貸してあげるしね。 その代わり、なんでも話さなきゃダメよ? あなたは思い詰めたら録な事にならないって、分かったんだから。 せつなが祈里にどんな魔法をかけたのか、それは聞かない。 でも、祈里は泣けるようになった。 それなら、次はきっと笑ってくれる。 震える小さな背中には、目に見えない大きな十字架。 あなたは背負って行く事に決めたのよね? アタシは代わってあげる事も、手を貸す事も出来ない。しちゃいけない。 だから、隣にいるからね。 いつでも、アタシの手を握っていいから。 clover 朝靄が立ち込める。吐く息が白くなり、冴えた空気が肺を充たす。 「行こっか!」 ラブはせつなに手を差し出す。 「うん。」 対するせつなはちょっと硬い顔。 ラブはせつなを抱き寄せ、グリグリと頬擦りする。 「ちょっ、ちょっと、ラブ!」 「タッハー!今日のせつなも可愛すぎ!」 せつなは顔赤くしてラブを押し退ける。 「もう!」 「にゃはは!さぁ、レッツゴー!だよ!」 二人は手を繋いで玄関を出る。 ……… …………… 「ブッキー、そろそろ行こ。」 「……うん……。」 祈里は顔を強張らせ、口の端をひくひくさせている。 ……ひょっとして、笑ってるつもりなんだろうか? 「きゃっ!何?美希ちゃん!」 美希はうりゃうりゃ!と祈里の頬を両手で押し潰す。 「表情筋のマッサージよ。何なら体も解そうか?」 「やっ!やはっ!やめてぇ!」 美希は祈里の脇腹をくすぐる。 ひーひーと身を捩り美希の指から祈里が逃げようとする。 「もぉう、涙出たよぉ!」 美希は笑顔で手を差し出す。祈里は美希の柔らかな手を、キュッと握った。 天使像の前に着く 。 ラブとせつながやって来るのが見えた。 「せつなちゃん、ラブちゃん、おはよう!」 祈里が手を振る。 ラブが白い歯を見せて、大きく手を振り返してくる せつなは微笑んで、胸の前で小さく手を上げる。 「今日はミユキさんも来てくれるんだよね?くっはー!楽しみ!」 「随分体なまっちゃったわ。ちゃんと踊れるかしら。」 「せつなは慣らす程度にしときなさいよ?病み上がりなんだから。」 「せつなちゃんなら、ちょっとやればすぐに追い付けると思う。」 四人で歩く。笑い合い、ふざけ合い、光の中を。 並んで、少し乱れたり、誰かが遅れたりしながら。 以前と変わらぬ風景。 でもそれぞれの中に、それぞれの傷。 深いもの、浅いもの、消える傷、残る傷。 胸に抱きながら歩いて行く。 いつか大人になって、それぞれの道に別れてしまう事になっても。 今、この一時を一緒に。 fin み-90は後日談となります。
https://w.atwiki.jp/twinkletimeprecure/pages/253.html
「夢の世界へようこそ!謎のプリキュア軍団登場っ!?」 時見町で最近流行っているという謎の眠り病にかかったフーミンたちは夢の世界から抜け出せなくなってしまう 新しい登場人物 夢の精霊バクー 四方山家、フーミンが目覚めると、両親が忙しない様子で仕事に向かう支度をしている。 なにやら町内で眠り病が流行っているらしく、その取材に行くのだという。 忙しい両親の代わりに妹を幼稚園に送りに行くフーミン。 幼稚園の様子もいつもと何か違う。 眠り病だ。すでに数名の子がかかってしまったらしい。 嫌な胸騒ぎを覚えながら学園に向かうフーミン。 教室は眠り病の話題で持ちきりだ。 オッキー、ピカリンの妹も眠り病にかかってしまったらしい。 「寝顔は笑顔で楽しそうなの。まるで素敵な夢でも見てるのかなって感じがして…」 力のない声で呟くオッキー。 「いったい何がどうなっているのか…」 人気のない時計塔でひとり頭を悩ませるフーミン。 「ドスン!」 何かが落ちてきた!? おそるおそる周囲を見渡すと、 小さい何かがうずくまっている。 「アイタタタ…」 見た目はバクのような謎の生き物、これは一体? 謎の生き物を抱えたフーミンはあゆむ達の元へと走る。 夢の世界へ誘う能力があると話すバクー。 フーミンはオッキー、ピカリンと共に夢の世界へと旅立つ。 たどり着いた夢の世界。 メルヘンなおとぎの国。 眠り病の人々も生き生きとした表情で夢の世界を楽しんでいる。 そこにはオッキー、ピカリンの妹の姿も…。 怪物が表れて夢の世界はパニック状態に…。 逃げ惑う人々。 すると3人の元に3匹の小さい生物が集まってきた! プリキュアになって戦うんだ!と話す妖精たちの願いを聞き入れて変身した3人。 そして敵と戦うフーミンたち。そこへあゆむたちも到着 必殺技で敵を蹴散らすフーミンたちはとても楽しそうだ もうほっておいてもいいんじゃないかな… しかしはやく夢から覚めさせてやらないと3人の体がどんどん衰弱してしまう フーミンたちに浄化技を食らわせる事をためらうあゆむと、少し嬉しそうなはるか フーミンたちにはあゆむらが敵に見えているらしく、戦闘に オッキーはつむぎの説得であっさりと正気に戻るが フーミンとピカリンはプリキュアに憧れていたらしく、力に酔って説得に応じない 仕方なく必殺技で浄化するあゆむ、はるかも積年の恨みをこめてピカリンを浄化 バクーに取り付いていた時魔龍の思念は消滅、正気に戻ったバクーは未来へ帰っていく 夢から覚めたフーミンたち 夢の中での出来事の記憶は消えているようだが、その顔はとてもスッキリした様子 だがピカリンだけはなぜか、体のふしぶしが痛むような気がするのだった バクのようなものは残骸時魔に取り付かれた精霊という事にしよう 名前はまんまバクーで良さそう。いつものほほんとしてそうだ スクープ大好きキュアフラッシュ 縫い物大好きキュアステッチ 歌うの大好きキュアシャープ メイミラとめぐるはフーミン達とそこまで面識が無いから夢には入れない、でも良いんじゃないかなあ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1082.html
「あれ?タルト。どうしてそんなところにいるの?」 庭の隅で少年にもらったパンを食べていたタルトは、その聞き慣れた声に、ぱっと顔を上げた。生垣の向こうに、こちらを覗き込んでいる少女の姿が見える。 日はもうとっぷりと暮れている。だから服装まではよくわからないが、彼女の髪は、門灯の光で銀色に輝いている。そのことに少し胸を痛めながらも、その声の様子が朝と同じく穏やかなのに気付いて、タルトは密かに安堵のため息を付いた。 「パッションはん!無事で良かったなぁ。サウラーと戦ってる間、気になって物陰から見とったんや。」 「そうだったの。心配かけてごめんなさい。あのあと偶然、桃園家にお世話になることになって・・・この時代でも。」 タルトは門の隙間からちょろりと外に出ると、少し伏し目がちなせつなの顔を覗き込み、目を細くしてニコリと笑った。 「知っとるで。実は家まで付いて行ったんや。あ、でも、さすがにあゆみはんに見られたらあかんやろか、と思って、中には入らんかったけどな。なんや、中学生のあゆみはんって、エラいキュートやなぁ!わっ、別に、普段がキュートやないって言うとるわけやないで。」 タルトのいつも通りの語り口に、せつなも少し、頬を緩める。 源吉の畳が自分たちのせいで被害を受けたと知り、手伝いを申し出たせつなだったが、今日はもう遅いから、という理由で、作業場に入るのは明日ということになった。そこでせつなは、夕食の後、急いでタルトの様子を見にやって来たのだった。 「ところで、どうして庭なんかにいるの?あの子は?」 そう言って小首をかしげるせつなに、タルトは少し心配そうな顔で、屋敷の方を振り返った。 「それなんやけどな。あの子のお父さんっちゅう人が、さっき戻って来たんや。こーんなでっかい車に送られてなぁ。それでわいも遠慮して出て来たんやけど・・・なんやあの子の方は、微妙な雰囲気やったで。お父さんがやっと帰って来たっちゅうのに、嬉しそうな顔ひとつせぇへんのや。」 せつなは、父の話をしたときの、何だか妙に寂しげだった少年の様子を思い出し、眉根を寄せた。 桃源まで、東へ五分 ( 第3章:一生懸命ということ ) 「そうかぁ。マシンの部品が、何かなくなっとるんか・・・。」 頼りなげな街灯のともる公園のベンチで、タルトがぼそりとつぶやく。 「まぁ、まだマシンがこの時代にあるっちゅうのは、ありがたいことやけどなあ。ナケワメーケを倒したときに、どこか壊れたんやろか。」 「それはないわ。現にこの時代までちゃんと来てるんだし。壊れたとしたら、この時代へ来てからね。おそらく、トラックの上に落っこちたとき。」 「やっぱりあんときかい・・・だとしたら、あの現場の近くにあると考えるんが普通やな。探しに行こか、パッションはん。」 タルトの言葉が、勢いを取り戻す。が、せつなはうつむいて、膝の上に重ねた自分の手をじっと見つめた。 「私・・・明日は源吉おじいさまのお手伝いをしたいの。私たちがこの時代に現れて、トラックの積み荷を滅茶苦茶にしちゃったでしょ?あれは、源吉おじいさまの畳だったのよ。」 「何やて?」 驚くタルトに、せつなは今日あゆみに聞いた一部始終を説明する。 「そうかぁ。そういうことなら、パッションはんはそっちを手伝ってや。探し物は、わい一人で何とかやってみるわ。」 「大丈夫?タルト。」 「任せときい!わいも、あんさんは源吉はんの手伝いをした方が、ええと思うわ。ひょっとしたら・・・」 「ひょっとしたら・・・なに?」 せつなが不思議そうに尋ねると、タルトはハッとしたように口をつぐんで、慌ててかぶりを振った。 「な、何でもないんや。とにかく、明日はそれぞれのやるべきことを、精一杯がんばるで!」 「タルトったら。どうしてそこで、私の台詞を取っちゃうわけ?」 クスリと笑ったせつなに、自分もにんまりと笑みを返しながら、タルトは心の中で呟く。 (ひょっとしたら、わいらがこの時代の歴史と関わってしまったことって、そのことなのかもしれへん。パッションはん、頼んだで。あんさんのその“精一杯”で、歴史の歪みを、元に戻してや。) 「よぉし、明日は張り切って、宝探しやぁ!」 タルトが思い切り拳を振り上げた時。暗がりから何かが近づいてくる気配を感じて、せつなが身構える。と、そこへ・・・。 「タルト、こんなところに居たのかぁ。宝探しって、何?」 ひょっこりと現れた少年の思わぬ言葉に、せつなは目を白黒させた。 (えーっと・・・これは、どういう未来の技術ってことにすればいいのかしら。) 必死で言い訳を考えるせつなに、 「おねえちゃん、お帰り。何かヒントになるもの、見つかった?マシンを暴走させた危ないヤツ、まだこの時代に居たの?」 少年が相変わらず、無邪気に質問を浴びせる。 「ちょ、ちょっとごめん!」 せつなは少年の言葉を遮ると、タルトの襟首を掴んで、脱兎のごとく少年のそばから離れた。 「タルト!一体どういうことよ。」 「す、すんまへん。わい、あの子の前でうっかりしゃべってしもたんや。家の中で、しばらく二人きりでテレビ見とったら、急に当たり前みたいな顔で話しかけてこられて・・・つい油断してな~。」 「全くもう・・・」 深いため息をつくせつなに、タルトも肩をすぼめる。 「せやけど、あの子あんまり驚かへんかったで。へぇ、やっぱりしゃべれるんだ、って喜んどったわ。」 「今朝、声が聞こえたとか言っていたから、ひょっとしたらと思っていたのかもね。まさか、正体まで明かしてないでしょうね。」 「そんなことしてへん!まぁ・・・イタチやないとは言うたけどな。この時代では、フェレットっちゅう動物は、あんまりメジャーやないんやな。」 「そこはどうでもいいんだけど・・・あの子にちゃんと口止めはしたの?」 「もちろんや。」 うなだれるタルトを前に、せつなはもう一度ため息をつくと、厳しい目でタルトの顔を覗き込んだ。 「いい?しゃべってしまったものは仕方ないけど、くれぐれも、あの子に余計なこと言わないで。私たちの時代のことを教えるなんて、論外よ。」 「わかっとるがな。」 「それから、私たちのこともむやみにしゃべらないで。私たちは、いずれは未来へ帰っていく通りすがり。それだけの存在でいなくちゃ。」 「う・・・自分の名前だけは、言ってもうたわ。」 「そう言えばさっき、呼ばれてたわね。全く・・・」 「えろうすんまへん。」 ひたすら小さく身を縮めるタルトの様子に、せつなはやれやれ、といった調子で、やっと少し表情を緩めた。 元居たベンチのところへ戻ってみると、少年はベンチに座って、長く伸びる街灯の影を、じっと見つめていた。そして二人がやって来たのに気付くと、ぽんとベンチから立ち上がり、せつなに向かってニヤッと笑って見せた。 「ごめんなさいね。タルトがあなたにしゃべったって聞いたから、びっくりしちゃって。」 「ああ、心配しないで。俺、タルトのこと誰かにしゃべったりしないからさ。それより、宝探しって何?」 せつなは少し考えてから、タイムマシンの部品が何か無くなっているらしいこと、この時代に最初に現れた橋の上を探してみようかと考えていたことを、かいつまんで話した。 「その部品って、どんな部品なの?」 「わからないわ。私はマシンの構造には詳しくないから。とにかく探してみるしかないと思う。」 「もしも見つかったら、どうするの?今マシンを持っているのは、その危ないヤツなんだろ?」 「まずは見つけることができたらの話だから、それから作戦を練るしかないわね。」 サウラーとの交渉――確かに一筋縄ではいかないだろうが、まずは一歩一歩足場を固めるしかないだろうと、せつなは思っていた。 それに、ただ元の時代に戻るだけでは駄目なのだ。もうひとつ、未来を元に戻すという、大きな仕事を成し遂げなければ。それこそ何の手掛かりもない、雲を掴むような話だが、こちらもとにかく、今出来ることをやるしかない。 「ふぅん・・・。」 そう言ったまま、なんとなく押し黙ってしまった少年の様子に、せつなは少し違和感を覚える。が、さっきのタルトの言葉を思い出して、ああ、と密かに頷いた。 「そう言えば、タルトに聞いたけど、お父さん帰って来たんだって?早く家に戻らなくていいの?」 せつなが優しい口調でそう問いかけると、 「別に・・・。俺が居ても居なくても、父さんは気にしやしないよ。」 少年のそっけない答えが返って来た。 「そんなこと無い。子供を気にしない親なんて、この世界には居ないと思うわ。」 思わず身を乗り出したせつなに、少年は今朝初めて会ったときの、ちょっと背伸びしたような表情を見せた。 「大丈夫だよ。俺だって小さなガキじゃないんだ。父さんには心配かけないように、うまくやってるからさ。」 さてこの話はもうおしまい、と言いたげな少年の様子に、せつなは密かに唇を噛む。 (そういうことじゃないんだけど・・・。) 何だろう。伝えたいことは確かにあるのに、うまく伝えられない。少年の心が、自分の心のすぐ近くにある気がするのに、すんなりと寄り添えない・・・。 せつなは、再びタルトを預かって家に帰っていく少年の後ろ姿を、もどかしい気持ちで見つめることしか出来なかった。 表に傷の付いた畳を作業台の上に据え付け、縁を留め付けた糸を手早く切っていく。縁を外し、畳表を丁寧に剥がすと、傷の無い床の部分を源吉の作業台のそばに立てかける。 迷いの無いその手元を、源吉はさっきから鋭い目で見つめていた。 (不思議な子だ・・・。) 最初は、畳を見るのすら初めてなのかと思えるほど、おっかなびっくり畳に触っていた彼女。だが、ひとたび作業の手順を教えると、その手つきは見る見るうちに確かなものへと変わっていった。 源吉は、これまで弟子を取ったことはない。仕事の仕方を人に教えたこともないし、自分だって、懇切丁寧に説明されて仕事を覚えたわけではない。 習うより慣れろ。技は見て盗め――徒弟制度の昔ながらの厳しい修行のやり方。それを知っているかのように、少女は真剣な面持ちで源吉の言葉足らずな説明を聞き、その指先を見つめて、いとも簡単にコツを掴んでしまう。 (記憶がねえと聞いているが・・・。) 一体今まで、どんな人生を歩んで来た子なのだろうと、源吉は内心舌を巻いていた。 せつなは、ただ無心で畳と向き合っていた。 まっすぐ丁寧に縫い込まれた糸にスッと刃を当て、縁と畳表を取り外す。職人の手で心を込めて作られた畳が、傷付けられた箇所を取り払われ、再び命が吹き込まれるのを待つ。 源吉は、せつなに言葉少なく指示を与えるだけで、ほとんど口をきかず、ただ黙々と手を動かしている。 夏だというのに、ひんやりと涼しい板の間。鼻をくすぐる爽やかないぐさの匂い。作業の物音しか聞こえない、しんと静まり返った空間――。 無駄口を叩かず、無駄な動きをせず、作業を効率的に進めていく様は、ラビリンスで何度も見たことがある。いや、ラビリンスの職場という職場が、そのような様相を呈していると言っても、過言ではない。 しかし、同じ静かな職場でも、この場の持つ雰囲気は、そんな無味乾燥なものとは正反対と言っていい。 作業場の至るところに、材料や道具の全てに、そして扱われている畳の全てに、源吉のあたたかな目配りが感じられる。源吉が作業場の全てのものを慈しみ、大切にしている様子が伝わってくる。 ここは単なる作業場ではなく、源吉にとっては聖域。自分のありったけの技と心を、畳に送り込む場所なのだ。それを肌で感じながら、そんな場所でお手伝いをさせてもらっていることを、せつなは心からありがたく、恐れ多いとさえ思った。 朝から懸命に作業を進めて来た甲斐があってか、あんなに山積みにされていた畳の解体作業も、夕方には全て完了した。あと残っているのは畳表や縁を縫いつける作業なので、さすがにそれは、せつなには手伝えない。 「いやぁ、お前さんに手伝ってもらって、本当に助かった。先方の希望には到底間に合わねえと諦めていたんだけどよ。お陰で何とかなりそうだ。ありがとうな。もうここはいいから、ゆっくりしてくれ。」 源吉は畳を縫う手を休めずにそう言うと、せつなに穏やかに笑いかけた。 「・・・もう少しだけ、ここに居てはいけませんか?」 せつなが遠慮がちに問いかける。 「そりゃ構わねえが・・・もう手伝ってもらうことは、特にねえぞ。」 「もし良かったら、ここでおじい・・・おじさまのお仕事を、少し見ていたいんですけど。」 「ああ、そりゃあもちろん構わねえよ。」 せつなは源吉の作業台の向こう側に、膝を抱えて座り込む。そして、源吉が畳を縫い上げていく力強い手さばきを、一心に見つめ始めた。 実はそれから十年と少し先。源吉の孫娘に生まれた幼いラブが、今のせつなと同じ場所に同じ格好で座り込み、目をキラキラさせながら源吉の仕事ぶりを眺めることになるのだが・・・せつなも源吉も、今はもちろん、そんなことは知らない。 「なんだかねぇ・・・。」 あゆみはテーブルに頬杖をついて、ぼんやりと宙を眺めていた。 目の前には数学の問題集。夏休みの宿題だ。しかし、開かれたページは真っ白で、さっきからちっともはかどっていない。 「あゆみ。今度は何?」 向かいの席に座って問題を解いていた尚子が、そのつぶやきを聞いて、顔を上げた。 「おじさんの畳は、何とか目処がつきそうなんでしょ?昨日のあの子がおじさんのお手伝いをしてくれてるって・・・」 「うん。とっても器用みたいで、お父さんも助かってるって。」 そう言ってまた、はぁっとため息。 あゆみの隣りで、問題集ならず爪を整えるのに夢中になっていたレミは、ひょいと首をすくめて、尚子と目を合わせた。 ここはレミの家のダイニング。このところ、三人は毎日のようにレミの家に集まっては、一緒に宿題をしたり、連れ立って遊びに出かけたりしていた。 これだけいつも一緒にいるのだ。ただでさえわかりやすいあゆみの気持ちは、レミと尚子の二人には、なんとなくわかる。 (ひょっとして今度は・・・あの「Kちゃん」のこと?) 「Kちゃん」とは、昨日あゆみたち三人を助けてくれた少女のことを指す、三人の間だけの呼び名だった。彼女が落としていった野球帽の内側に、マジックで「K.T」とイニシャルが書いてあるのをレミが見つけて、誰ともなしにそう呼び始めたのだ。帽子の方はあゆみが預かっていて、後で本人に渡そうと思っていた。 「もしかして、Kちゃんのことが気になるの?」 尚子の問いに、あゆみは素直に頷いた。 「うん。やっぱり彼女、なんだか寂しそうなのよね。」 「まあ、記憶が無いって言うんじゃあ、色々と不安に思うのも無理ないわよぉ。」 レミはそう言ってから、心なしか声のトーンを落としてこう続ける。 「ねえ、Kちゃんの髪・・・あれってやっぱり、何か相当苦労したとか、恐い目に遭ってああなったのかしら。ほら、よく聞くじゃない?とっても恐ろしい思いをした人が、一晩で白髪になっちゃうことがあるって話。」 「でも、あの髪はどう見たって白髪じゃなくて、銀色よ。レミちゃんの蒼い髪と一緒で、生まれつきなんじゃないの?」 あゆみが口を尖らせる。 「生まれつきって・・・あんな髪の色、見たことある?」 「確かに珍しいけど、居ないわけじゃないんじゃないの?現に、Kちゃんがそうなんだから。」 尚子が問題を解く手を休めもせずに、あっさりと言い放つ。 「尚子、それって理論的なようで、理論的で無いような・・・」 「レミに言われたくないわよ。」 何がそんなに問題なの?と言いたげな尚子の口調に、レミもしぶしぶといった調子で押し黙った。 「それより、あゆみ。寂しそうだと思うんなら、話をするなり、遊びに連れ出すなりすればいいじゃない。」 一段落ついたのか、尚子がカタンとシャーペンを置いて、うーん、と伸びをしてから言った。 「そうなんだけど・・・。なんか、深入りして欲しくないっていうか、出来れば放っておいて欲しいっていうか、そんな雰囲気を感じるのよね。」 「クスッ。フフッ、ハハハ・・・。」 「・・・尚ちゃん?何がおかしいの?」 突然笑い出した尚子に、あゆみが怪訝そうな、少し不機嫌そうな声で問いかける。尚子は微笑を浮かべたまま、いたずらっぽい目つきで、そんなあゆみを見返した。 「だって、あんまりあゆみらしくないこと言うんだもの。あの頃私に、あんなに親身におせっかいを焼いてくれた、あなたとはとても思えない。」 言われてあゆみは思い出す。あれは、中学一年生の三学期。四つ葉中学校に転校してきた尚子が、一月も経たないうちに、クラスから少々浮いた存在になってしまった頃のことを。 見た目の女の子らしい可愛らしさとは裏腹に、理路整然とした理屈を、ストレートに口にする論客。そのギャップがいけなかったのか、まだ親しい友人も出来ないうちに、級友たちの大半が、彼女を遠巻きにするようになっていった。 尚子自身、そういった状況を、あまり悲観的には受け止めていなかった。元々彼女の家は転勤家族で、尚子も小学校を四回替わっている。だから、学校ではやりたいことをやり、言いたいことを言い、またすぐ別れてしまう級友たちには何の期待もしない・・・そんな処世術を、彼女はいつの間にか身につけてしまったのだ。 別にいじめられるわけではない。誰も話しかけてこなくても、休み時間には教室で本を読んでいればいい――そう思っていた尚子だったが、あゆみだけは、他の級友たちとは違った。 いくらつっけんどんな言葉を浴びせても、そっけない態度を取っても、休み時間の度に、ニコニコと話しかけてくる。一緒にお昼を食べようと誘いに来る。彼女につられて、幼なじみだというレミまでも、尚子の元に頻繁にやってくるようになった。 そして決定的だったのが、ある雨の日の放課後。学校帰りの空き地で怪我をしている子猫を見つけ、どうしたらいいかとうろたえていた尚子と一緒に、あゆみは寒空の下、動物病院を探して駆け回ってくれた。結局、商店街から少し奥まったところにある山吹動物病院を見つけて、子猫は一命をとりとめた。 その日から、あゆみと尚子は、本当の意味での友達になった。今ではレミも含めた三人がいつも一緒にいるのは、級友たちにとっても、ごく当たり前の光景だ。 「私ね、あゆみ。」 真面目な表情に戻った尚子は、じっとあゆみの目を見つめて言った。 「あの頃、あゆみやレミが話しかけてくれても、無愛想な返事しかできなかったけど、本当は凄く嬉しかったのよ。放っておいてなんて口では言っても、独りっていうのは、やっぱり寂しいから・・・。何か事情があるのかもしれないけど、あの子も本当は、独りでいたくはないんじゃないかな。」 尚子の目を見つめ返すあゆみの顔に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。 「あ~あ、珍しく尚子が素直だから、喉渇いちゃったぁ。二人とも、麦茶飲むわよね?」 レミがガタンと乱暴に椅子を引いて立ち上がり、二人から顔をそむけて、冷蔵庫へ向かう。きっと、その目にうっすらと光る涙を隠しているんだろうなと、あゆみは尚子と顔を見合わせて、クスクスと笑った。 「よぉし、今日の分はこれで終いだ。」 源吉が、出来たばかりの畳の縁を、そっと手でしごく。源吉の手元をずっと見つめ続けていたせつなは、その声にほぉっと息を吐き出して、肩の力を抜いた。 「ずいぶん熱心に見ていたな。畳作りは、面白いかい?」 「ええ。本当に一針一針、大事に作られているんですね。」 せつなに素直に頷かれて、源吉はとても嬉しそうに相好を崩した。 「そうとも。一針一針、ちゃあんと愛情を込めて一生懸命作りゃあ、使ってくれる人にも、想いが伝わるってもんだ。それに、お天道様にもな。」 「お天道様?」 不思議そうな顔をするせつなに、源吉は静かに頷く。 「何事もな。目立たなくったって、上手くいかなくったって、諦めずに頑張ってさえいりゃあ、お天道様は必ず見ていて下さる。今度のことだって、俺はもう駄目かと諦めかけたけどよ。そんなときに、お前さんという強力な助っ人が現れた。やっぱり、俺が毎日真心込めて畳を作っているのを、お天道様はちゃあんと見ていて下さったんだなぁと、そう思った。」 「い、いや、私は別に、お天道様とは何の関係も・・・」 「はぁっはっはっ!」 源吉は豪快な笑い声を上げると、うろたえて赤くなったせつなの顔を、優しく覗き込んだ。 「人と人との巡り合わせってことを言ってるのさ。俺にとっちゃあ、お前さんとの出会いは、まさに天の助けだったんだ。今までコツコツ頑張って来たご褒美に、お天道様が助けて下さったんだって、俺は思ってる。」 「私が・・・おじさまにとって?でも、私は・・・」 眉を曇らせてうつむいたせつなは、しばらく逡巡した後、意を決したように口を開いた。 「私はきっと、そんな褒められるような人間じゃないんです。お天道様に罰を当てられても仕方の無いような・・・。だから、私との出会いなんて・・・」 「本当に悪い人間はな。そんな風に、悩んだり苦しんだりしねえよ。」 低く深みのある声が、頭の上からやわらかく降ってきて、せつなは思わず顔を上げた。源吉の、あゆみに似た優しい鳶色の瞳が、目の前にあった。 「悩んで、苦しんで、それでも前へ進もうとあがくのが、真っ当に生きてくってことだ。そんな人間に、お天道様は罰なんか当てたりしねえ。むしろ、みんなが顔を上げて歩けるように、あったけえ光で照らして下さる。そのお陰で、俺たちは気が付きゃほんの少し、前へ進めてるんだ。だから、そんな風に思わなくていい。俺にとっちゃお前さんは、紛れもねえ、天の助けさ。」 「・・・・・・。」 嬉しさなのか、哀しさなのか、恥ずかしさなのか・・・自分でもよくわからない熱い塊が胸にこみ上げて、せつなは耳まで真っ赤になってうつむいた。源吉は、そんなせつなの様子を愛おしそうに見つめると、ぽんぽんと二回その頭を軽く叩いて、よっこらしょ、と立ち上がった。 「夕飯まで、まだ間があるだろう。後は片付けだけだから、家に戻ってな。」 「片付けなら、私も一緒に・・・」 そう言いかけたとき。作業場の引き戸の隙間から、そっと手招きしている小さな動物のような手が、せつなの目に飛び込んできた。 「パッションはん。大変やぁ!」 せつなが作業場から出てくるのを待ち構えて、タルトが慌てふためいた様子で駆け寄って来た。 「落ち着いて、タルト。ここじゃまずいわ。こっちに来て。」 人目につかない家の裏手にまわって、何があったのか、せつなは改めてタルトに説明を求める。 「今日は一日、あの橋の上やら周りやらで、マシンの部品を探しとったんや。そしたらさっき、サウラーが現れてな。」 「サウラーが!?タルト、見つかったの?」 「いや。わいはそのとき河原におったんで、向こうは気付かへんかったはずや。そのまま隠れてやり過ごそうって思ってたら、あの男の子がやって来たんや。 あの子はサウラーにすたすた近付いていって、何やら二人で話しとった。そのとき・・・あの子がなんか、小さな光るものを手に持っとったんや。」 「それって・・・まさか!」 驚きに目を見開くせつなに、タルトは力強く頷いて、はっきりとした口調で言った。 「タイムマシンの・・・部品やと思うわ。」 昨夜の公園で、少年に感じた違和感を、せつなは鮮明に思い出していた。あのとき、彼はもうマシンの部品を手に入れていたのかもしれない。もしかしたら、昨日の朝初めて会ったときには、そうとは知らず、あの河原で部品を拾った後だったのかもしれない。 (それを・・・私たちに黙っていたということは・・・) 「タルト!二人はその後、どうしたの!?」 「・・・街外れの、森の方へ歩いて行ったわ。」 聞くが早いか、せつなは全速力で走り出した。 「あら?あれ、Kちゃんじゃないのぉ?」 レミの家の前で帰宅の途につこうとしていたあゆみは、レミにそう言われて、慌てて後ろを振り返った。 道路の向こう側を、飛ぶように駆けていく少女が見える。 軽やかな足の運び。力強い意志を感じさせる、煌めくような瞳。夕陽を浴びて、銀色というよりはむしろ、金色に輝く髪・・・。 しなやかな獣のような美しいその姿にしばし見とれていたあゆみは、ハッとしたように、その後を追って走り出した。 「ちょっと、あゆみ!どこに行くのよ。」 尚子が慌ててその後を追う。 「えーっ!?ちょっとあなたたち。追いつこうなんて無理だってばぁ!」 レミの悲鳴を聞きながら、あゆみは次第に遠ざかっていく少女の背中を、懸命に追いかけていた。 せつなは、焦る気持ちを必死に押さえながら、日の暮れかかった商店街をひた走っていた。足元には、タルトがしっかり、彼女のペースに付いてきている。 何かとてつもなく、嫌な予感がする。少年の大人びて見える寂しげな瞳と、サウラーの氷のような瞳が、頭の中でぐるぐると回っている。 (間に合って・・・。今度こそ、あなたに伝えたいことを、精一杯伝えてみせるから!) 目指すは街外れに広がる森――この時代から二十五年後に、占い館と呼ばれる古い洋館が出現する、昼なお暗い、森の中だった。 ~第3章・終~ 新-859へ
https://w.atwiki.jp/yakanhikou/pages/66.html
百合勢とは植物のユリを好む美しきデュエリストたちの勢力である。 概要 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【分類】ユリ目ユリ科ユリ属 【学名】Lilium spp. (学名の由来)Lilium→ケルト語で白+花といわれるが、ラテン語その他の古い言語由来とも 大輪の筒状の花を咲かせる。その美しさは多くの人々を魅了し、古来から世界各地の文化に深く関わってきた。 本属の全ての種が鱗茎(球根)植物で、根は食用として栽培される(ゆり根)。大抵のユリの根には苦味があるので、栽培されているほとんどが、苦味のないコオニユリ(L. leichtlinii var. tigrinum)である。ゆり根は関西、特に京都で好んで食べられている。ネコに食べさせると毒があるっぽいので注意! 品種によって多種多様な花を咲かせ、園芸植物としても人気である。幕末には日本のユリがイースター・リリー(復活祭のシンボル)としてヨーロッパで大人気を博し、日本の生糸(絹)に次ぐ二番目の主要輸出品となった。 (某笑顔動画記事より引用) 関連項目 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆敵対する勢力一覧 コング勢 麻雀勢 もふもふ勢 非変態勢 ぺろぺろ勢 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 ─やぁ─ 百合勢とは、女性と女性の[禁則事項です]が大好きな者達による勢力である。 本当の概要 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ こちらの「百合」の意味は、すなわち「女性同性愛」のことを指す。 しかし同じように女性同性愛をさす「レズビアン」と「百合」の言葉の間に ニュアンス的な意味の違いがあることも事実であり、 百合の方がよりプラトニック性を重視しているいう意見もある。 また、百合の中でも性的な感情に発展しているものを特に「ガチ百合」とすることもある。 百合勢 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 要は女性同士のカップリングを愛してやまない人々のことである。 ◆メンバーリスト 一度でも百合好きといったら・・・・フフフ 関連項目 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆敵対する勢力一覧 コング勢 麻雀勢 もふもふ勢 非変態勢 ◆派生(?)勢力一覧 ぺろぺろ勢 ◆元凶 変態勢